2010/05/21

『ムー大陸の謎』金子史郎/著

 わたしは古本屋で、今ではとうてい出版されそうもない、面白い絶版本を探すのが趣味だ。絶版本といっても高値の付いた古本ではない。百円〜数百円で手に入るチープな本ばかりだ。なぜわざわざチープな本を買うのかというと、すでに評価されて高値が付いた本を見つけても、あまり感動はないからだ。「こんな面白い切り口があったんだ」と思わせてくれる古本は、たいてい百円ぐらいだったりする。

 

 最近のお気に入りは、金子史郎氏の『ムー大陸の謎』。この本は、1977年11月の刊行。出版社は、講談社現代新書だ。ムー大陸といえば、今ではすっかりオカルト方面のジャンルにカテゴリされているはずだが、1977年の時点では、講談社の学術系が扱っていたという事実に軽いショックを覚え、思わず購入してしまった。

 ムー大陸とは、かつて太平洋上に存在したと伝承される大陸のこと。この本によると、1868年、イギリスの士官をしていたジェイムズ・チャーチワードがインドに駐在していたとき、ある高僧からムー大陸の話を聞いたという。なんでも寺院の地下にはおびただしい粘土板が保存されており、そこにはかつて存在したムー大陸の文字が刻まれていたとか。伝説によると遥か昔、ムー大陸では皇帝ラ・ムー率いるムー帝国の文明が栄華を極めていたが、洪水によって沈んでしまった。インドはそのムー帝国の植民地(?)だったという。高僧によると「この粘土板の文字は、母国から各植民地に布教のために派遣されたナーカル(聖なる兄弟)が用いたもの」だという。高僧は、ムーを「母なる国」「本国」と信じていたらしい。もちろん高僧の存在自体、どこまで本当なのか確かめようもない。適度にうさんくさくロマン溢れるお話ゆえ、ムー大陸幻想はまたたく間に広まった。

 この本の興味深いところは、著者の金子氏が、チャーチワードの話を素直に受け入れていることだ。高僧はムー帝国を「母なる国」で、人類の母国だと信じていた。チャーチワードは、この話に刺激されてムー大陸の研究をはじめた。高僧がそこまで信じているということは、伝説には何か背景があるはずと考えたのだ。金子氏は、このチャーチワードの視座を継承しつつ、極めて真面目に洪水伝説が今も残るイースター島やポリネシア、ミクロネシアの島々の神話や伝説を調べ、ムー伝説が根も葉もない話とは言えないと推測。その上で地質調査をし、一万二千年ほど前、ミクロネシアの島々が今より少し大きく遠浅の海が続いていた事実を提示して、ムー大陸とはかつて太平洋上に存在した島々のことで、ムー文明とは海洋的な暮らしをしていた人々の文化のことではないか、と結論づけている。

 金子氏は、伝説を信じるチャーチワードや、ポリネシアの人たちの心に残る想像豊かな伝説、ムー大陸に幻想を抱く現代人の心を否定せず(むしろ積極的に汲み取りながら)地質調査によって、大きな大陸ではないけどそれらしきものはあったのではないか、解釈しているのだ。極端に霊的な方面に走らず、学術一辺倒でもなく、健全な視座でムー大陸を語っているように思う。わたしは、このバランス感覚が現代にとって一番必要なのではないかと常々思っている。どんなに資料や理論が正確でも、人の心をおざなりにした研究などつまらない。

 金子氏は、最後に、ムー大陸の物語の資料や伝承が散逸していることについて、白人の侵略による被害があったことを述べて、こう語っている。

 ポリネシアの栄光の歴史は、いまや閉じられようとしている。ポリネシア世界を発見した当初の海の大ロマンは、わずかに口承に姿をとどめているにすぎない。ムー帝国にしても、この帝国を謎のヴェールに包んだほんとうの原因は、文明社会ではなかったか。ポリネシア諸島民の生命を奪い、創造力を窒息させ、記憶まで失わせたのは文明社会であった。

 余談だが、名草戸畔(なぐさとべ)のルーツについて調べているとスンダランドにいきつく。おかげでわたしにとって、新石器時代(縄文時代)、太平洋上に生きた海の民の話は、かなりリアルに感じられる。ポリネシア諸島民の伝承は、はるか日本列島の名草ともリンクしているかもしれない。

4 件のコメント:

  1. 純粋な目線で描かれているいる所がよさそうですね。
    今はラ・ムーをチャネリングしたチャネラーの本があり
    有名になってますね。真偽のほどは不明ですが。

    ナグサトベってそう言えば海洋の民でしたっけ。
    その時代の事がリアルに感じられるって
    そうなるまでに相当勉強なさったんですね。

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  2. ラ・ムーをチャネリングした本ってどんな内容なんでしょう。比較してみると面白そうですね。

    まあ、いろいろ調べました。
    ナグサトベは南方系ではと想像しています。
    詳しくは本を出さないと。。。

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  3. 返事を全文書いたらこのホームページが
    エラーになったので私のメッセーンジは必要ないと判断し
    コメントは控えさせていただきます。m(__)m

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  4. ごめんなさい。きっとコメント覧に入る行数が少なかったのでしょう…。

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