2010/05/05

『No Reason』by masashi_furuka



『No Reason』と題された写真集のページを開くと、浴槽でリストカットする若い女性が目に飛び込んできた。次のページには、オーブンに頭を入れたまま亡くなっている美しい女性。その次は、高速道路と交差する陸橋の上で、座り込んだまま動かない男性。どうやら彼らは自殺したらしい。

 実にショッキングな内容だが、これは本物の自殺の風景ではない。masashi_furuka氏が、ヘアメイク、スタイリングを駆使し、巧妙に作り上げた「死例」なのだ。「File01:死例001−012」と副題の付いたこのシリーズでは、12の死例が収録されている。

 オーブンの女性は、専業主婦か何かで表面的には幸せそうに暮らしているが、キッチンで作業中に突然「死」に取り憑かれてしまったのかもしれない。陸橋の男性は、何に絶望してしまったのか。橋の上でうたた寝したまま亡くなっているように見える。通行人は彼を見ても通り過ぎるかもしれない。誰にも死んでいることに気づかれず、ひとり橋に佇んでいるようだ。たった一枚の写真から、彼らが死に至った過程や状況が想像できる。これらの写真は、生きることの意味を見失って「境界線」を越えてしまった人たちの風景を、想像力を駆使して表現しているのだ。



 この写真を見ると、他人事ではないと思う。自分だって、いつ「境界線」を超えてしまうかわからない。よく考えてみれば、生きることの意味なんて分からないからだ。現代人は、不景気とはいえ餓えることもなく、楽しいことがあまりなくても「とりえあえず生きている」。わたしもそんなところが多分にある。そんな風に漠然と生きているわたしは、「生」に対する欲望が薄い。だからといって、この写真の登場人物のように、「境界線」を超えてしまっていいものだろうか。生きていたところで、何もないかもしれないが、死んだところで、何もないかもしれない。それならもう少し生きて、今自分がここにいることを大切にしたいと思う。例えそこに意味がなくても。

 masashi_furuka氏は、「架空の死」を作り上げることで、今現在を生きている自分を見つめ直す作業へ、見る人の心を導いているのではないだろうか。「架空の死」は、自分自身の心の奥へ旅をするための装置なのだ。



 masashi_furuka氏の第2回目の展覧会「永遠にしにたい」が5月7日より、新宿眼科画廊で行われます。今回の展覧会は写真集の第2巻も発売されます。みなさまもぜひ、出かけてみて下さい。

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2009年5月7日(金)~12日(水)
12:00~20:00(展示最終日~17:00)
新宿眼科画廊 スペースO
〒160-0022 東京都新宿区新宿5-18-11
TEL: 03-5285-8822
URL:http://www.gankagarou.com/
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2 件のコメント:

  1. 私は昔「死」に憧れに近い感情を抱いていましたが
    今は生きることに集中しています。あの憧れは古い自分の
    死を望んでいたからでは…?と思っています。

    睡眠が死に近い状態とすれば
    寝ることで今日の自分が死に、起きるときに
    生まれ変わったと言えるのでは…?

    実際、生まれ変わったような感覚で
    起きるときがありますしそのような清々しさで
    いつも起きたいと願っています。

    睡眠という生死を繰り返して
    永久の時まで生きるんじゃないでしょうか。

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  2. >睡眠が死に近い状態とすれば
    寝ることで今日の自分が死に、起きるときに
    生まれ変わったと言えるのでは…?

    それはよい発想ですね。

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