2009/11/06

百年に一度の伝承

 名草戸畔(なぐさとべ)の原稿は、今まで公開されていなかった「口伝」を扱っている。この口伝は、「宇賀部神社」宮司家の小野田寬郞氏の家に内々に伝わってきたものだ。小薮繁喜氏が七十年も所蔵していた、昭和十二年に名草小学校で演じられたお芝居の台本にも、「小野田口伝」に通じる内容が含まれていた。

 わたしたちがこの口伝を採集したのは、2006年11月のことだ。わたしはこの現代に、いまだに知られていない伝承を新たに発掘するなどということが起こるとは思っていなかった。そうした伝承や民俗は、すでに調べ尽くされているか、あるいは過疎化が進み消滅してしまったかのどちらかだと思っていた。ところが、現在の和歌山市と海南市には、まだ未発掘の伝承が残っていた。しかも紀伊は、ヤマト王権のお膝元。紀ノ川や紀ノ川平野は、古代史的にも重要な地点だ。

 こんな場所から未発掘の口伝や伝承が出てくることなど、数十年か、百年に一度ぐらいの話だ。そういうことは、古代史ファンは百も承知だった。調べはじめた直後から、わたしと社長が作っていたナグサトベのブログ(現在は原稿執筆のため閉鎖)には、ディープな古代史ファンが集まってきた。

 出版に携わる人であれば、本来は、この古代史ファンたちと同じ嗅覚をもっているはずだ。ところが出版界は、次第にマーケティングの考え方を取り入れるという誤りを犯すようになってきた。そうしているうちに、百年に一度出るかで出ないかという貴重な伝承の意味も理解できなくなってしまったのだろう。しかし、嗅覚をもった編集者が一人もいなくなったとは思っていない。二千年前を生きたナグサトベは、わかってくれる編集者が出てくるまで、あの世で待っているのかもしれない。

2 件のコメント:

  1. その意気です!maiさん!
    きっとわかって下さる編集者がいるはず!

    きっと編集者は名草戸畔の本を出して
    どんなに世の為に役に立つか
    わかってないのだと思います!

    それを熱く語って編集者のココロを
    がっちりつかんで下さい!

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  2. >きっと編集者は名草戸畔の本を出して
    >どんなに世の為に役に立つか
    >わかってないのだと思います!

    本当に、そういうところが多々あります。
    出版社より読者のほうが、確実にものをわかっているんです。

    読者のためにも、よい編集者がみつかるまでがんばります。

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