2009/10/07

大国主とスサノオ 〜前編〜


 わたしのアトリエの近所にある、「氷川神社」。たまに黒いアゲハチョウが飛んでいる、あの神社だ。社務所の資料によると、祭神は「須佐之雄尊」「稲田姫尊」「大国主尊」の三柱。9月の半ばに行われるお祭りでは、毎年、スサノオの八岐大蛇(やまたのおろち)退治の舞が奉納される。この神社では、大国主の伝承も残っている。資料には次のように記されている。

当神社ハ------大国主尊カ草木ニテ薬ヲ製シ諸病ヲ禁圧シ、又須佐之雄尊カ悪神ヲ切リ従ヘシ古代ノ御事績ニ因リ諸病ヲ封シ、特ニ胃癪ノ封ハ当社伝来ノ秘宝二因リ祈祷ヲ為ス、大祭ノ折ハ有名ナル劔ノ舞アリ

 わかりやすいうと、当社は、大国主が草木を薬にして病気を治し、スサノオが悪神(八岐大蛇)を切ったという古代の事績によって病気を封じる。特に胃の病気封じについては、当社伝来の祈祷が行われている。大祭にはかの有名な剣の舞がある。

 胃の病気封じについては、もう一つ伝承がある。手前の拝殿の奥に、小さな奥宮があり、ここに朽ち果てた巨木の根元が注連縄をかけて祀ってある。神社の看板によると、かつて、この木の皮は胃病に効くと信じられて人気が高く、遠くからもたくさんの参拝客が訪れて、木の皮を少しずつはいでいったという。そのせいか、今はもう枯れてしまい、根元しか残っていない。つまり、この木は、「大国主が草木を薬にして病気を治した」という伝承の影響で神聖視されたらしい。

 東京の八雲(旧フスマ村)に伝わる大国主の伝承は、木の皮や薬草の知識に長けていたというふうに具体的で現実的だ。大国主の伝承は全国各地にあるのだが、やはり具体的な内容が目立つ。伊豆の「来宮神社」には、「昔、大国主の一族がやってきて、温暖で過ごしやすく温泉が湧く伊豆を気に入り、ここに国を作った」という伝承が残されている。これに対してスサノオの方は、悪の象徴である八岐大蛇を切る、という神話的な物語になっている。『古事記』『日本書紀』では、この大国主とスサノオは親子として描かれているため、こうして一緒に祀られている。

0 件のコメント:

コメントを投稿