2013/11/25

個展の開催にあたってメッセージ


 このたびの個展の開催にあたって、メッセージを書きました。ご一読いただければ幸いです。会場で皆様にお会いできるのを楽しみにしています。



毎日新聞連載記念『貝がらの森』展 開催にあたって

  このお話のなかで、主人公の夢は子どものころ、白昼夢のような世界に迷い込んでキツネになってしまいます。ファンタジーの世界では、人でないものになることは「異界の者」になり、異界を視る目を手に入れたことを表しています。ファンタジーとは、イメージそのものが生きて動く世界です。物理的な日常という現実とはまた別の現実世界の表現であるといえます。日常とは、わたしたちが勝手に「現実である」と思い込んでいる世界ではありますが、それは世界のほんの一面でしかありません。

 主人公の夢は、キツネになることで日常を離れ、お化けの世界の「内側」に入り込んでいきます。これらのお化けやカミサマたちは、山や木々や海や太陽の大いなる自然を畏れ敬う心がお化けという形をとって顕れたものではないかと思います。

 この物語を描くにあたって、名草戸畔(なぐさとべ=古代名草の女性首長)について調べるため、何度も和歌山に足を運んだことが、わたしにとって大きく影響しています。古代名草の人々が信仰していたとされる名草山のまわりには、明治以前まで山を取り囲むように15社もの「中言神社」が建っていました。一部の神社は今も現存します。目には見えないけれど名草山には精霊がいて、神社はそれを守っているかのようです。きっとお化けや妖怪もたくさんいることでしょう。こうした世界を本の中ではなく、実際のこととして体感できたことは大きな幸せでした。

 人は、「日常」という一面的な現実ばかりに囚われていると、心が疲れてきます。ところが不思議なことに、お化けと遊んでいると心がスッと「抜けて」楽しくなってくるのです。心にはそういう働きが内在しているように思います。わずかな力ではありますが、これからも、そんなお化けのお話や絵を描いていけたらと思っています。

 このたび、『貝がらの森』を連載させていただいた毎日新聞社、素敵な会場を提供してくださった「じゃんじゃん横丁」、いつもたくさんお力をいただいている和歌山の友人たち、そして名草の精霊とお化けたちに、心より感謝を申し上げます。


なかひら まい


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