2011/01/13

古老の伝承02

『青銅の神の足跡』谷川健一・著(集英社)にも、興味深い聞き取りが出ていた。谷川氏が兵庫県加美町的場の「荒田神社」の番をしている老人から、次の話を聞いたという。要約すると次のようになる。

 昔、このあたりに一人の姥神(うばかみ)が住んでいて、落葉清水と称する神泉から水を汲んではカビ(甘酒をあらわす方言)をこしらえて、神の御許に酒をささげ、お祭りをしていた。

 谷口氏によると、この老人の口伝は、『播磨国風土記』に見える、道主日女命(みちぬしひめのみこと)が生んだ子が酒をつくり、諸神を招いて宴会を開いたという話とよく似ているが、老人の語り口からは文書の模擬ではないという。老人の話は、おばあさんが甘酒をこしらえるという素朴なものだからだ。文書とは別に、この土地で今も残る伝説ではないか、ということだ。
 『青銅の神の足跡』は一九七九年の刊行なので、谷口氏が調査していたのは、七十年代以前だろう。その頃には、まだ各地に口伝が残っていたようだ。

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